湿地状河川における環境調査 -施工後の植物追跡調査と工事への提案-

1.改修工事の背景

対象河川は、十勝地方の畑作地帯をゆったりと流れる河川です。当初の改修目的は、洪水防御と滞水の早期排水でしたが、地元のまちづくり構想との関連から、多自然型川づくりの要望が出たため、平成6年度から多自然型川づくりが進められてきました。


写真1 改修前の河道。カワセミやショウドウツバメが採餌に飛来していた。
水鳥やトンボ類も多く生息していた。

2.目標-水生植物が茂る湿地の早期回復と、より好ましい移植方法の提案-

もともとこの川は、ほとんど流れのない沼のような河川でした。水際にはヨシやミクリ、スゲ類を中心とする水生植物が繁茂し、広い湿地が形成され、タンチョウやマガモなどの鳥類やトンボ類の生息環境となっていました。改修に当たってはこのような湿地の早期回復をめざして植物の移植がおこなわれ、前例がない工事でしたので、試験的にいろいろな方法を試みました。調査は、植生の回復状況を確認すると共に好ましい移植方法を提案することを目的として、工事の進捗に合わせて約6年間おこなわれました。

3.工事への提案

3-1.移植方法の提案

ヨシ群落の移植に当たり、①鋤きとり→仮置き→移植、②鋤きとり→直ちに移植の2つの方法について、生育状況の良悪を比較しました。どちらも同じような生育状況だったので、工事の進捗に合わせて都合の良い方法を選択するよう提案しました。


写真2 3者協議により、より簡単な移植方法をおこなうこととなった。
写真はそれまで市松模様に掘っていた移植穴を列状穴に変えたところ。

3-2.移植密度の提案

移植密度を①30%②50%③100%の3種類用意し、それぞれの生育状況を比較しました。その結果、30%・50%とも同じような生育状況で、ヨシやミクリなどの侵入も比較的速いことから、30%移植で十分と判断し、施工手間のかからない30%移植を提案しました。

3-3.移植植物の提案

施工業者さんは、移植予定植物が近傍にない場合、それまでは遠くに出かけて目的の植物を探して持ってきていました。しかし調査の結果、法面上部はどの植物を移植しても雑草群落に置き換わり、逆に水際部は水生植物群落に置き換わることが分かりました。そこで移植植物を特定せず、法面上部に「雑草群落」、下部に「水生植物群落」とし、近傍の植物を利用できるようにしました。

3-4.移植ブロック配置の提案

それまでは法面を碁盤の目状に区切り、市松模様状に移植していましたが、裸地部への植物の侵入状況を調査した結果から、より簡単な列状移植を提案しました。


写真3 改修1年後。順調な植生回復。

4.その後-手間がはぶけ業者も喜ぶ

調査と提案の結果、施工手間が従来よりも格段に軽くなり、業者さんにも土現さんにも喜ばれました。現場で、監督員と施工業者、コンサルの3者で打合せして方法を決めたことも良かったと思います。
今回に限らず、施工中・後の追跡調査は、その後の施工方法を改良していく上でも有効です。今後も現場をよく観察していきたいと考えています。


写真4 写真1の改修3年後。
改修前と同様に、カワセミやショウドウツバメが飛来するほか、
カモ等の水鳥やトンボ類の楽園となっている。

文責:梶祐子

2002年10月18日