【堤防基礎地盤の漏水がナゼ悪い?】
堤防基礎地盤の漏水は、河川水が堤防下にある透水性地盤を通じて堤内側に浸透・流出する現象です。透水性地盤とは、砂礫や砂など土粒子間の空隙が比較的大きい土からなる地盤のこと で、一般に土粒子が大きいほど透水性が良い傾向にあります。
基礎地盤の漏水によって、すぐに堤体に悪影響を及ぼすということは少ないと考えられます。しかし、過度に浸透が生じると、地盤中の土粒子が外部に洗い流されて水みちができ、それが堤防の安定性を脅かす地盤破壊につながってしまう可能性もあります。
また、河川の増水時に堤内側へ水が多く流出し、隣接する農地などが水に浸る恐れもあります。
【調査地の状況】
周辺住民の方々からの聞き取り調査で、調査地では
・河川増水時の堤内排水路内での湧水
・川から少し離れた畑での水のしみ出し
などの現象が確認されました。また、調査地は、
・ 蛇行河川を直線化した箇所であること
・ 天井川(河床が周辺地盤よりも高い川)になっていること
などから、堤防下に旧河床堆積物である砂礫や砂が存在し、河川水がそこを通じて堤内側に漏水している状況が推定されました。
【漏水実態を暴く】
昔の地形図や空中写真から、以前の河川の蛇行状況が確認されました。しかし、河道形状は洪水ごとに変わる場合もあり、透水層の分布位置を特定するためには、現地の地質調査が必要です。
地質調査は、まず電気探査を実施して概略の地質状況を把握し、その後ボーリング調査によって詳細な地質を確認する方法をとりました。電気探査とは、土や岩が種類によって異なった電気抵抗を有するという性質を利用し、地中に電気を流して得られる地盤の比抵抗値の違いから地質を判別する物理探査法です。物理探査は、ボーリングのように直接地質を確認できないという短所はあるものの、探査区間の地質状況を帯状に連続して把握できるという長所があります。
今回は、電気探査とボーリング調査の長所を生かし、漏水調査として必要な精度を保ちつつ、効率の良い調査を実施することができました。
電気探査結果(画像1)とボーリング調査結果によって透水層の分布位置を特定した後は、透水層中の地下水の動きを調べました。その結果、河川から堤内側への地下水の流動が明らかとなり、当初想定された漏水状況が確認されました(画像2)。
画像1:電気探査結果図
画像2:調査地での漏水状況模式図
こうして確認された漏水箇所では、堤防の表法尻付近に鋼矢板を難透水層まで打設し、鋼矢板の継ぎ目に止水材を注入して遮水しました(画像3)。
画像3
【調査法の確立】
今回のような漏水調査は全国的に事例があるようですが、確固たる調査法は未だ確立していない状況です。今回の事例では、調査法の一つとして電気探査を採用し、良い結果を出すことができました。しかし、他にも漏水調査に有効だと考えられる物理探査法があり、もしかしたら電気探査よりもベストな手法があるのかも知れません。各地での調査事例を集約し、有効かつ効率良い手法を見出すことが必要でしょう。そういう動きの中で、今回の事例が役に立てばと考えています。
担当部署:構造・地質部