1.はじめに
これは平成14年4月19日に開催された地すべり学会北海道支部研究発表会で発表したものです。私達が参加している地すべり学会北海道支部の研究小委員会では、航空写真による地すべり地形判読に取り組んできました。判読作業には反射型実体鏡(写真.1)を使用していますが、これでは①経験の少ない者にとっては時間が掛かる、②判読する個人によって地すべり地形のタイプや大きさが異なる、③個人によって判読した地すべり地形を地形図に記入する時に誤差が生じる等の問題点がありました。
写真.1 反射型実体鏡
そこで、写真測量に使用されているデジタルステレオ図化機を活用することによって、その機械の持つ機能や作業環境が地すべり地形判読に対して優れた利便性を与えることを確認しました。
今回は、デジタルステレオ図化機を使用した判読および表現方法について紹介します。
2.地すべり地形の判読
2.1 前処理
図.1に示す範囲を判読する場合、まず範囲内の密着写真(今回は林野庁で1986年モノクロ撮影、縮尺2万分の1)を、市販されているA3版のスキャナを使用してラスタデータとしてパソコンへ取り込みます。
次に、航空写真の座標は、判読範囲の周辺にある座標を持った三角点を図化に必要な基準点として用いて、空中三角測量を行うことによって求めます。
最後に、国土地理院発行の2万5千分の1地形図を、スキャナを利用してラスタデータとして取り込み、三角点の成果から座標を与え、航空写真と同位置を画面へ表示させるように処理をします。
図.1 判読範囲案内図
(国土地理院刊行の数値地図25000「南幌加」「四番川」から作成)
2.2 判読作業
判読作業には、写真.2のようなモニター画面を使用します。モニター画面の左半分には、スキャナで取り込んだ2枚のステレオ航空写真を表示させ、液晶シャッタースクリーンと偏光グラスを用いることによって、実体視が可能になります(写真.3)。モニター画面の右半分には、地形図を表示させます。モニター画面の左半分に表示された航空写真に地すべり地形をマーキングすることによって、右半分に表示された地形図にも同様に図示されます。映しだされる航空写真は、ズーム機能を使用することによって拡大・縮小することが可能で、判読者は任意の倍率(識別できるのは最大で約32倍)に設定された画像を実体視することができます。
写真.2 判読作業時のモニター画面
写真.3 判読風景
3.三次元表現
デジタルステレオ図化機では、航空写真を実体視しながらブレイクライン(傾斜変換線)を図化し、Tin (三角網)を自動発生させ、画像と Tin を貼付けて3次元データを作成し、鳥瞰的な画像を作成することが可能です(写真.4参照)。
また、3Dアニメーションを作成することによって、地すべり地形を真上からだけでなく、視点を変えてヘリコプターに乗ってるかのように観察することができます。今回は、写真.4に示すルートを設定しました。
写真.4 アニメーションルート
4.まとめと展望
デジタルステレオ図化機による地すべり地形判読は、以下の特長を有しています。
- 数10m程度の小さな地すべり地形でも判読可能
- 複数の人間による同時判読が可能
- 判読した地形を正確に地形図に図示できる
- 実体鏡よりも目への負担が少ない
- 実体視する時の倍率が容易に変更できる
- 判読地点の標高が確認できる
- 複数の判読データの重ね合わせ
- 判読結果のデータベース化
- 時系列判読の情報管理を一元化
- 3Dアニメーションによる視点を変えた判読
以上の特長により,冒頭にあげた反射型実体鏡を使用した場合の問題点を軽減あるいは取り払うことができます.
最近航空写真に代わるものとして、高分解能衛星データがあります。従来の人工衛星より細かく地球を観測する高分解能衛星には、現在運用中のIKONOS(イコノス)や昨年打ち上げに成功したQuickBird(クイックバード)等があります。高分解能衛星は、分解能1mで同箇所を1ヶ月に10~20回も観測するなど、これまでの衛星とはかなり異なった特長を有します。このような特長を生かすことによって、判読精度が向上したり、時系列判読が容易にできると期待されます。
デジタルステレオ図化機は、地すべりハザードマップへ展開するための基本データ作成に貢献するとともに、将来的に高分解能衛星データを用いる段階になっても、十分に対応できます。
担当部署:構造・地質部