街路設計:Vol.1使い手の視点が事業の原動力に

住民参加による機能美を追求した街路設計について、3回に分けて記載します。


今、道路事業に求められているのは、ユニバーサルデザインやバリアフリーデザインなど、使い手の方々の考えを取り入れた道づくりです。歩いて暮らせるまちの実現にむけた取組みを進めている大樹町では、まちづくりワークショップにおいて市街地のバリアフリー点検などを行い、歩道整備の基本的な考え方を検討していました。 詳細は…TMO:中心市街地活性化をめざして (北海道大樹町公式ホームページより)

これを受けて北海道帯広土木現業所大樹出張所では、市街地内の道道「3・4・13寿ふれあい通」の改良にあたり、沿道の皆さんの会話が弾むような道端となり、冬には除雪しやすい安全な道となることを常に考えながら、住民参加による街路の計画・設計を行いました。

まずは市街地の景観全体を!

ワークショップの結果を総合するとまち全体の景観は、『四季を感じる…』『牧歌的イメージ』『歴舟川、日高山脈』等の自然との関わりが求められました。また『大樹の名に恥じない…』『土地の風土を生かした景観形成』など、郷土意識に通じる想いが強く感じられました。
そこで市街地全体としては、隣接する歴舟川の水辺や近郊の農耕風景と結びつくような緑を道路で育み、自然なイメージをまちに取り込むことを考えたのです。
もちろん、道路だけでは無理な話です。沿道の方々の庭や軒先や公共施設などでも積極的に緑化を行なうことで、まち全体の魅力となるように仕立てることも重要となりました。

■夏でも幅が狭く危険な歩道は、すぐに雪に埋もれてしまう。

では、どんな道に?

市街地景観は、この道路が緑化による景観イメージを先導する役割を担っていること浮き彫りにしました。

『気持ちよく歩き、そして出会い、集い、語らい、憩うみち』

ワークショップでは、この基本理念を見いだし、日常的に人の気配が感じられるような整備を行うこととしました。
具体的には『機能美を追求したシンプルで広々とした空間づくり』を整備方針とし、ワークショップで重要な論点となった『歩行者の使いやすさ』『雪対策と緑化』『車両の速度抑制』の3つの視点から、整備イメージを展開させました。
沿道住宅での花壇の配置や住民による日常的な植樹帯の手入れなど、お年寄りや弱者、身障者の方々が通りがけに気軽に会話できるような仕掛けを考えていくことも大切です。

■まちづくり全体から街路整備へと話し合いを進めました。

機能と意匠と技術は同時に考える

私たち土木技術者は、時々勘違いすることがあります。土木的な検討や新技術の模索だけを先行してしまい、使い手である住民の方々の使いやすさという機能、心地よさを与える意匠をなおざりにしていませんか?

舗装材は皆さんの意見をもとに

どんな舗装材料にしようか?と考えたとき、私たちは、これまでに開催してきたワークショップの記録を読み返して、地域のみなさんとの話し合いをもう一度整理してみました。「アスファルトで十分!」「カラー舗装!」「滑り止め効果!」「透水性!」…等々、すべてを満たせば歩道がパッチワークのようになってしまいます。
そこでワークショップでは、6種類の試験舗装で歩いた感触や丈夫さを確認してもらいました。「百聞は一見にしかず」ということです。


■思い思いにメモをとり、6種の材料の特徴を確認しました。

車椅子利用者の方の声に注目!

ワークショップの流れを変えたのは、普段から車椅子を利用している方の意見でした。車椅子の急発進・急停止の繰り返しで、路面のグリップを一つ一つ確認したのです。さらには、目地による振動の違いを指摘していただき、皆さんで確認してみました。
これをきっかけに、自分のためだけではなく、車椅子利用者やお年寄り、ベビーカーなどの様々な歩行者へと参加者全員の視点が広がりました。
水を撒いたときの滑り具合や車がハンドルを切ったときのブロックの歪み、転んだ際の衝撃など、あらゆる疑問・心配をその場で明らかにしました。
住民の皆さんの結論は、「アスファルトでは滑る」、「平板ブロックでは振動がある」。だから、細かなスリットによって滑らず、かつ振動も少ない平板舗装の選定でした。

■試験舗装の体験をもとに話し合いは深まっていきます。

歩道と車道の段差は小さく!

地域の皆さんと話を進めていくうちに、従来の道路づくりは、車のバリアフリー化だったと思えてきました。車のためにこれほどまで歩道を切り下げる必要があったのでしょうか?
こうした疑問から町内では、歩行の段差なく車道を横断するために、歩道の高さまで車道を盛り上げる『スムース交差点』の検討を進めていました。
しかし、このまちの積雪を考えると、除雪車が路面を削ってしまうことが懸念されました。
では逆に、歩道をできる限り車道に近い高さまで低くすることができないか。土木現業所は、ワークショップの結果から、全線に渡って『セミフラット型』歩道の採用を決定したのです。


■『セミフラット型』歩道で路面の波打ちを解消しました。

より良い設計方針を導いたのは、ワークショップ参加者の皆さんの力でした。

担当部署:地域開発部

2002年12月13日