治水ダムにおける長大魚道の効果について -サクラマス幼魚を利用した降下・遡上調査-

本文は、平成15年10月9~10日に行われた、『全国魚道実践研究会議2003in岐阜(主催:NPO法人「魚道研究会」)』で発表した内容に、その後の調査データを加えたものです。

1.はじめに

様似ダムは、様似川河口より8km上流に治水を目的として、昭和50年に建設された堤高44.0m、堤頂長140.0mの重力式コンクリートダムである。
当河川はサケ等の遡上河川であり、毎年多数の回帰を確認しているが、ダムにより川の連続性が分断されていた。そのため、平成5~11年度にダム水環境改善事業により幅、2.0m、延長290.0mの階段式魚道が設置された(図-1)。
ダム管理者である北海道では、魚類の降下・遡上の実態を調査し、魚道の効果を明らかにすることを目的として、平成13~15年度にかけ、サクラマス幼魚を利用したトラップ調査を行なっている。

当社は平成14~15年度の調査に携わっているので、その結果について報告する。

図-1 様似ダムと魚道の全景

2.調査方法

魚道は全面越流型の階段式魚道で、その構成は入口から75段の「階段区間」および、ダム堤体を貫通する内径φ450mm、延長14.0mの「管路区間」よりなる。勾配は1/10、設計流速1.28m/s(切欠部)で、対象魚はサケ・マス類である。
調査方法は、階段区間の上流端に採捕トラップを設置し、24時間に一度引き上げ、入網した魚種の同定、尾叉長、体重の計測を実施した。調査時期は、様似川における魚類の降下時期(6~7月)、遡上時期(8~9月)とした。

2-1.降下魚調査

ダム管理施設のインクライン部より、尾叉長14.5±0.1cm(平均値±標準偏差、以下同じ。n=100、平成15年度のみ計測)の池産スモルト(降海できる体に変態したサクラマス幼魚)5000個体をダム湖に放流後、20~25日間実施した。

2-2.遡上魚調査

(1)階段区間
階段区間下流部より尾叉長12.9±1.0cm (n=50、平成15年度のみ計測)の池産ヤマメを900~1000個体放流後、60日間実施した。なお、平成15年度調査は現在継続中である。

(2)管路区間
管路区間について、遡上状況を確認するため、トラップ設置個所より上流側に逃逸防止の仕切網を設置後、池産ヤマメ100個体を仕切網より上流に放流し60日後、プール内に残留した個体数の確認を行った(平成14年度のみ)。

3.調査結果

3-1.降下魚調査

放流魚(スモルト)を含む総個体数は平成14年度41個体、平成15年度28個体を確認した(表-1)。
スモルトの尾叉長は、平成14年度12.4±1.5 cm 、平成15年度14.0±1.5 cmであり、放流した個体と同程度であった。

表-1 調査結果(降下魚)

3-2.遡上魚調査

ヤマメを含む総個体数は平成14年度51個体、平成15年度47個体を確認した(表-2)。ヤマメの尾叉長は、平成14年度12.6±3.6 cm、平成15年度13.3±1.1 cm であり、放流した個体と同程度であった。

表-2 調査結果(遡上魚)

 

管路区間については、放流魚が30個体残留していた(残り70個体はダム湖へ遡上したと考えられる)。

4.まとめ

4-1.降下魚調査

調査により、少ない個体数ではあるが放流魚(スモルト)がダム湖から管路区間を抜け、階段区間の上流端まで降下できることを確認した。
したがって、魚道下流端まで降下可能と考えられる。また、過去の調査、目視観察等により、ダム越流部を利用して降下していることも報告されているので、今後利用状況等の確認が必要である。

4-2.遡上魚調査

調査により、放流魚(ヤマメ)が階段区間および管路区間を遡上できることを確認した。これにより、魚道全体の連続性は確保できていることが明らかになった。

(3)今後の課題
当魚道の本来の目的は、サケ・マス等のダム上流域への移動を必要とする種が魚道を通過し、自然繁殖をすることによって再生産の定着を図ることである。
本調査によって、放流魚が魚道を遡上・降下できることが明らかになったが、確認数が少なく、また魚道を通過した魚がダム湖を抜け、上流域まで遡上しているかは不明である。
したがって、今後幼魚の放流を継続的に行ない、生息数の増加を図るとともに、ダム湖の上流域で遡上状況の確認調査が必要であると考えている。
これより、今後も調査を継続的に行ない、効果を検証する必要があると考えている。
以上

【追記】

本論文投稿時は調査途中の報告でしたが、60日間の調査を終えた結果、魚道対象魚であるサケ親魚、サクラマス親魚がはじめて確認されました(写真)。
このことにより、当魚道では、サケ・マスがダム上流域へ移動可能であることが分かりました。今後は魚道を通過した魚がさらに上流まで遡上して産卵し、孵化した稚魚が再び魚道を通り抜け海へ向かうという生活サイクルが確立され、永続的にこの魚道が機能することを切に願います。

写真 サクラマス親魚

-H15年度 調査を終えて-

いつもの現場作業は長くて2~3日ですが、この現場はかなり長期間に渡るものでした。作業の内容は1日1回魚道の中に設置したトラップを引き上げ、魚種を確認するというもので、1日の作業時間が2時間程度なので旅館に帰って別の仕事をしなければなりませんでした。いや、別の仕事をすることができました。その仕事場は日当たりが悪くジメジメしており、6月でも日中ストーブをつけなければならないほど寒いところで、夜の6時頃に入るフロがせめてもの救いでした。
休日の楽しみは、現場が様似町であったため、えりも岬、アポイ岳、浦河のお祭りなどを見に行ったりしましたが、見どころがなくなると一人孤独に川原で焼肉をしていました。
今思えば、不便な点はあったものの1人で現場をまかせされ、それをやりとげた達成感を味わうことができて良かった?と思います。

共同執筆:住出徹、中原修、細川康司

2004年7月9日