小河川におけるヤマメ産卵床の創出

1.対象河川の状況(改修前)

対象河川は、平水時の川幅3m、水深10cm程度の田園を流れる道東の小河川です。過去に積みブロックによる3面張り護岸が行われていますが、河積不足のため、氾濫を繰り返していました。設計前に行われた河川環境調査によると、北海道レッドデータブックでも指定されている、ヤマメやアメマスなどのサケ科魚類が確認されています(写真1)。

写真1 施工前の様子

2.課題・条件の整理

この川で確認されたヤマメは、淵の下流から瀬にかけて小レキがある場所を好んで産卵床として利用します。しかしこの川には、河床がブロック張りとなっており、産卵床として適した場所がありませんでした。
間伐材の利用当時、間伐材の積極的利用を求める通達が北海道より関係各所へ配られていました。また、当該地区は林業を主な産業としているため、この河川改修工事では間伐材を利用することが望ましいと判断しました。
この川は平常時の水量が少ないため、魚類が常時生息するには水深を確保する必要がありました。
3面張りコンクリート瀬・淵等のダイナミクスの全くないこの川を見ていると、自然な(自然のまま、というのは用地の都合上できませんが…)蛇行をさせてあげるべき、と思いました。

3.設計の概要

設計にあたっては、「この設計は、最初から完全な形に作り上げるのではなくて、川自身が時間をかけてその川に合った姿を作っていくための下地づくりである」との姿勢を持ち、この川自身の力(掃流力)で蛇行や瀬・淵形成のメカニズムを復元できるような工夫をしました。
具体的には、限られた河川用地内ですが許された範疇で自由に蛇行をできるように、水際を固定しない掘削のみの低々水路を造りました。また、河道内の洗掘・土砂堆積を促す目的で、アーチ型の平面・横断形状を持った木杭帯工を設置することにしました。
これらを行うことで、帯工をきっかけとして河床洗掘や土砂堆積が起こり、ゆるやかな蛇行や瀬・淵が復元され、ヤマメの産卵床となると渕尻も創出できると判断しました。

4.施工後の状況

3月に工事が終わり、融雪出水が終わった直後5月の様子を写したものです。工事時には低々水路を直線的に掘削したのですが、アーチ型帯工をきっかけとして、河床掘削や土砂掘削が起こり、低々水路が蛇行していました。

写真2 施工直後(平成13年5月)

工事後4ヶ月(7月)の様子を写したものです。融雪出水時に上流から流下してきた種子を捕捉して、水際にはクサヨシやミゾソバ、河岸にはアカザやスギナなどの植生が回復しました。

写真3 施工後(平成13年7月)

たった一度の融雪出水を経験したことで、改修前の平らな流れからは想像できないような深さ1mほどの淵が形成されました。

写真では見えませんが、体長15cmのヤマメや体長40cmのアメマスが、特長をはいた足にゴツゴツぶつかっています。

写真4 帯工下流の淵

5.まとめ

今回使用した帯工は、ウェッジダムやログダムと呼ばれる丸太を使った帯工と原理は同じですが、この河川特性に合わせて改良したものです。
どのような河川でも、本来持っている洗掘・土砂堆積作用を高めることで、川自身がその川に合った姿を形成していくことが可能です。今回の手法を用いれば、市街地を流れる小河川や排水路のようなコンクリートで固められた河川でも、自然に近いな流れを取り戻し、生態系の機能や景観性を高めることが可能になると思っています。
※ウェッジダムのウエッジとは楔(くさび)=V字型、ログダムのログとは丸太という意味です。
あえて今回の帯工に名前を付けるとすれば、アーチ型ログダム、とでもなるのでしょうか・・・?

追跡調査によると、魚類の種数・個体数など改修前よりも格段に増えているそうです。産卵床調査は行われていませんが、淵の形成や隠れ場となる河岸植生の回復状況は良好であるため、きっとヤマメが産卵床として使ってくれるだろうと期待しています。

2003.09.24追記

道東に行く機会がありましたので、その後を見てきました。

●H13施工箇所 帯工下流です。


アーチ型帯工の下流が掘れて、その下流に砂礫が堆積しています。設計時に期待・想像していたような形に近づいてきました。

●今年度(H15)施工箇所です。

左の写真が平成15年5月に撮影したもので、右の写真が平成15年9月の撮影です。
ただの平瀬だった河川が、たった4ヵ月の間に(見た目に)自然な水際を形成していました。

文責:香川誠

2002年8月12日